2012年5月20日日曜日

[飛ぶアイアン]の落とし穴

「飛距離UP」を謳い文句にする商品は何時の時代も評判になる。一昔前に長尺ドライバー(45.5~47インチ)が一世風靡したが、どれだけの人が本当に「飛距離UP」を実感できたのか疑問だが。今では流行も下火となり、45インチ以上の長尺ドライバー愛用者は激減している。
新たな流行は[飛ぶアイアン]だろう。長尺ドライバーの二番煎じのようだが、メーカーの宣伝文句は「プロと同じ番手で飛ばす」「2番手違う飛距離」など、飛距離UPを謳い文句にするアイアン商品が売られている。
欧米市場にも2°ストロング程度のStrongアイアン」が非力な女性・高齢者を対象に販売されている。一方、日本国内は4~6°ストロングの[飛ぶアイアン]は技術革新による[ハイテク商品]として脚光をあびている。欧米ではこうした超ストロング・アイアンは[Gimmick商品]と揶揄されている。
アイアンロフト角
欧米では[Gimmick商品]日本は[ハイテク商品]と評価が2分されるのは何故だろうか?
この欧米と日本のスペックを比較すると明らかなように、5番アイアン[22度]とは、標準3番アイアン[22度]を5番の長さ(短く)にして使用しているのと同様である。当然、5番より3番アイアンの方が飛距離は伸びるだろうが、誰でも3番アイアンを使いこなすのは難しい(5番より)ことは知っている。幾ら短くなっても……。22度の5番アイアンを使いこなすには(短いほうが操作性が良いが)標準3番アイアンを[1インチ短くして]打てるだけのスキルが要求される。2番手異なる[ロフト角]のクラブを販売して[2番手違う飛距離]を謳い文句にする。こうした製品が果たして[ハイテク商品]だろうか?
これこそ[Gimmick商品]だろう。
問題は[情報公開]にある。角度調整が可能な[アイアン製品情報]や[アイアン・フィティング情報]が公開されていない。この情報の閉鎖性が、業界の隠蔽体質を生み出している。適切な[素材]のアイアンを所有すれば解決するだろう。問題は、角度調整可能なアイアンが普及していないことにある。適切な[素材]のアイアンを所有すれば解決する問題である。
欧米の標準アイアン・スペック 

2
3
4
5
6
7
8
9
PW
SW
シャフトの長さ
39.75"
39.25"
38.75"
38.25"
37.75"
37.25"
36.75"
36.75"
36.0"
35.75"
ロフト角度
19°
22°
25°
28°
32°
36°
40°
44°
48°
56°
日本の超ストロングアイアン・スペック

2
3
4
5
6
7
8
9
PW
SW
シャフトの長さ


38.75"
38.25"
37.75"
37.25"
36.75"
36.75"
36.0"
35.75"
ロフト角度


20°
22°
25°
28°
31°
35°
40°
56°


上記リストで明らかなのは、標準の「2~4番ロングアイアン」はストロングアイアンの「4~6番」であり、7番8番がミドル、9番PWがショートアイアンに変っただけである。ピッチングのロフト角が40度というのは、つまり8番アイアンのソールに「P」と刻印してあるのと同じである。ヘッドスピード40m/sであれば、ピッチング飛距離は120ヤード位になり、結果的に110/100ヤードを打つためのアイアンが2本必要になるだろう。

日本のゴルフ関係者から、ゴルフの本質を伝えるメッセージが発信されているだろうか?
[Gimmick商品][ハイテク商品]の認識の違いは[情報の差]にある。欧米は、徹底した[情報公開]が習慣化している。
米国PGAは、タイガー・ウッズのアイアン・スペックに関して「ドライバーの長さやシャフトは変更するが、アイアンは決して変更したことがない。何時も同じシャフト(True Temper Dynamic Gold X-100/S)を使用し、長さ・ロフト角・ライ角度・重量を保っている」
また、フィル・ミケルソンの7番アイアン飛距離情報に関して「快晴の暑い最良のコンディションの日に、175~185ヤードを記録している」と発表している。

PGAスポークスマンは、こうしたプロ選手の情報を公開すると同時に「プロ選手を真似て9番や7番アイアンで特定の飛距離を打つことが重要なのではない。自分自身のスキルに応じ、番手ごと一定の[飛距離を打ち分ける]飛距離を予測し打てるようにすることが重要」とするコメントも発表している。
[ストロング・アイアン]に関しても「ストロング・アイアンを使用するPGAプロは殆ど存在しない。プロの打ち出す常識を超えるアイアン飛距離は、ロフト角度によるモノではなく彼らのスキルによる。90%以上のトーナメントプロは[標準スペックのアイアン]を使用している」と公表。つまり、PGAプロの[ストロング・アイアン]の使用を否定している
日本のメッセージは、メーカーの宣伝文句を容認する「プロ並みの飛距離実現」を煽る報道が見え隠れする。正しい情報を発信する専門家は少なく、ゴルフ雑誌の特集も宣伝を煽る報道だけが踊っている。確かに、Par3ホールで短い番手で打つことに優越感を感じるプレイヤーもいるだろう。それがゴルフの本質と言えるのか、専門家の立場からコメントする人は居ないのか?

欧米にも[4度ストロング]の商品が過去に販売された実績があるが、元々、こうしたアイアン(軽量・ストロング)は非力な女性・高齢者の対象商品として開発されてきた。このような極端なストロングアイアンは、非力な女性ゴルファーや70歳を超えた高齢なシニアプレイヤーには必要かもしれない。しかし流石に[6度ストロング]商品が必要かどうか、問われるべきだろう。
日本のゴルフメディアは真実を伝達する義務を放棄し、売るための報道に加担しているとしか思えない。
ストロング・アイアン仕様

2
3
4
5
6
7
8
9
PW
SW
シャフトの長さ


38.75"
38.25"
37.75"
37.25"
36.75"
36.75"
36.0"
35.75"
ロフト角度


21°
24°
28°
32°
36°
40°
44°
56°
ライ角度


60.0°
60.5°
61.0°
61.5°
62.0°
62.5°
63.0°
64.0°
総重量


355g
360g
365g
370g
380g
385g
390g
395g
アイアンのストロング化は時代の流れであることも事実である。40年間で[4,5度]のストトング化は[フローデザイン]の歴史的な見地からも自然なことだろう。非力な女性ゴルファーや高齢なシニアプレイヤーの為に「4°ストロングアイアン」を否定するモノではない。但し、ストロング・アイアン仕様(5番/24°)になれば、ピッチングとサンドウエッジの間に[48°と50°前後]のギャップを埋めるウエッジ(2本)を加える必要が出てくる。結局、アイアンのセッテイングの本数に差が出てくる訳ではない。
体力に問題のないゴルファーが、「プロ並みの飛距離実現」を目的に超ストロングアイアンを使用するのは[アイアンの基本]を忘れた愚かな行為と言えるだろう。ホール毎に、チャンピオン・ティ、ホワイト・ティ、レディース・ティが存在するのは何故なのか。ハンディキャップが認められているのは何故なのか?
ゴルフの基本を再考する必要がある。長尺ドライバーの「ガラパゴス化」再演を繰り返せば、日本のゴルフは世界に通用しなくなるのでは……。

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